<安全かつ高い効果を生むアクティベータ・メソッド治療法>~インタビュー~
「マニピュレーション Vol.15(2000.2)54」
<目次>
- 高速スピードで安全かつ効率的
- 来院数が如実に示す即効性
- アメリカや豪では選択科目として採用
- 厳しいアメリカの資格認定制度
- 検査の柱は下肢長検査法差の評価
- 足長を合わせているのではない!
- 再現性の高いテクニック
- 基礎教育の上に立った普及を望む
注:掲載内容について
本稿の内容は、季刊誌「マニピュレーション」発行時点での情報です。ご了承ください。
安全かつ高い治療効果を生むアクティベータ・メソッド治療法 |
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◆高速スピードで安全かつ効率的
-アクティベータ・メソッドの核心に入る前にまずアクティベータ器 (activator adjusting instrument)はいつごろ開発されたんですか?
保井:1960年代のことですが、アメリカのDCでArlan Fuhr(ファー)とWarren Lee(リー)の二人が、治療が忙しくなるに従い、繰り返し行うターグル・リコイル(toggle recoil)母指スラストによる矯正は術者に疲労と筋肉痛を引き起こすことに気づいて、なんとか体の負担を減らすことができないか考えているところに、歯科医の患者さんが親不知を割裂させるための器械を持ってきたんですね。
それに改良を加えて先端にドアストップの小さいゴムを取り付けて患者に試してみたところ好結果を示したようなんです。
これが機能的にはアクティベータ器の原型になったわけです。
一般にアクティベータと一口に言いますが、本来もつ治療システムはアクティベータ・メソッド・カイロプラクティック・テクニック(AMCT)と言うんです。
アクティベータというとすぐに器具を思い浮べる人が多いんですが、実はこのテクニックはHugh Logan(ローガン)のベーシック・テクニックの概念である身体の歪みのほかに下肢長測定法を基礎においたもので、器具によるアジャストメントよりも患者の身体の観察・評価の方が重要な要素を持っているんです。
-アクティベータ器の原型は意外に合理的とも言える発想から生まれたんですね。
保井:そうですね。
手でやるのは非常に術者側に負担があるから、器具に変わったということが始まりの発想だったようです。
私も以前は手でやることにこだわっていたんです。手で矯正するという醍醐味から、なかなかアクティベータに行けなかった。「こんな器具で効くの?」というのが学生時代に出会った初めの印象です。
でも、いまでは直接手で治療したいというこだわりが、自分にとって非常にマイナスになっていたなと思っています。
というのは、その後、アクティベータの治療に深く入れば入るほど治療効果があがっていますから、その結果が信頼して来院してくださる患者の数に反映しているようです。
結果を出さないと、場所が良いとか、優しい先生だとか、開業年数が長いだとか、大きな広告を出しているだとか、見かけ、口先だけのパフォーマンス的な治療だけでは患者は来てくれませんからね。
今は特にそういう時代ではないでしょうか。
-それだけ効果が認められてきているということですね。
保井:アクティベータ器は何が利点なのかというと、スピードなんです。
作用量(Force)は、質量(Mass)?加速(Accelaration)で計算しますね。
人間と器械を比べると、質量つまり圧の加え方は、力の加え加減で強くも弱くもなります。
でも加速、スピードに関しては、器具の方が格段に速いです。人間の能力では到底達成できない速さが機器によって作り出されます。
比較にならないほどです。
スピードが速ければ速いほど、患者に与える負担は少なくなりますね。つまり、圧が軽くても、スピードが速ければ、作用量(力)は同等になります。
ですから矯正する時、スピードが速くて、圧が少なければ、患者への衝撃や危険性は減少しますが、圧が強くてスピードが遅ければ患者への衝撃や危険性は増加するわけです。
そういった原理を考えれば、これを使わない手はない。
ですからアクティベータによる治療は、最小限の衝撃力かつ最大スピードで最大の効果が得られますので、非常に安全で効率のよい治療ということになります。
◆来院数が如実に示す即効性
-実感としてそれだけ違うものですか?
保井:結果がきちんと出ますからね。
そういったこともあって、アメリカではアクティベータ・メソッドによる治療を本格的に使うドクターが増えてきているようです。
最近のアメリカの統計で見ると、アクティベータを使っているカイロプラクターは、1日の患者数が徒手一般のカイロプラクターよりも半分多いと言われています。
つまり1日ふつう30人程度患者が来るとしますと、アクティベータのドクターは45人ぐらい診ているということになります。
ですからアクティベータのインストラクターセミナーに参加して尋ねてみると、一日に60人とか70人みているドクターが普通のようですよ。
数でどうこういうわけじゃないですけど、でも実際に治療の結果が出ているからその数がついてくるわけです。
アメリカ人の気質からみても効かないクリニックには二度と来ませんからね。現実の臨床から叩き上げられたテクニックという感じがしますね。
ですから私もアクティベータ治療に集中するようにしてから来院数が急激に増えてきたようです。
-経済効果も大きいですね。
保井:そうですね。
経済効果も結果を出せば自然についてくるものだと思います。
そういう意味ではアクティベータによる恩恵は大きいので、これからはこのアクティベータ・メソッドの啓蒙と普及を正しく行なっていかなければならないし、多くの機能不全や疼痛に悩む患者にその効果を知っていただかなければならないと思います。
また、後継者の育成も考えなければなりませんが、やはり、本気で高いレベルのカイロプラクターになろうとする覚悟のある人、つまり、インスタント的にカイロプラクターになろうとする人ではなく、長い時間をかけて、厳しい試験などの高いハードルを越えてでも国際的に通用するカイロプラクターになろうとする人に対して普及していくべきだと思います。
やはり、日本ではカイロプラクティックに対する認識がまだまだ甘いですから、短期間に楽して名ばかりのカイロプラクターを目指す人が多いようですし、そのような人への普及は考えなければならないと思います。
基礎的な知識というか、カイロプラクティックなどの基礎教育を受けていない人が手っ取り早くテクニックばかりを追うと、いろいろなつまずきとか問題点が出てきますし、誤解を招く原因となり患者に迷惑をかけることになるのではないでしょうか。
これまでよく行われている、誰でも受講できる短期集中セミナーなどもそう言えると思います。
誰にでも教えることは簡単なんですけど、正規の技術をもつ人を育てるということになるとそれなりの基準が必要になり、勉強したい人は誰でもその技術を短期間に教えますよという無責任な教育はできないのではないでしょうか。
だから私もそういう点を配慮して、アクティベータ・メソッド会長のDr.ファーとも相談し、彼の指示に従いながら国際基準に沿ったアクティベータの教育体系プログラムを作っていくべきではないかと考えているところです。
◆アメリカや豪では選択科目として採用
-有効性が確認できるのですから、早く普及させた方が本当の意味で患者の恩恵になりますね。
保井:そうですね。
でも、いま言ったような普及のさせ方を考えなければ、あとでいろいろな問題が出て社会に影響を与えかねないのではないでしょうか。
アメリカという国は現実的実力優先の国ですから、効果が出せないと受け入れられないし、伝わっていきません。
アメリカでこのアクティベータがスタートした当時は、Dr.ファーもかなりの患者を診ていたそうです、1日100人とか。
効果があるから患者が多いのでしょう。ですから周りのドクターがなんであそこのクリニックはそんなに流行っているのだろうとなるわけです。
それならばそのテクニックを教えましょうかというのがセミナーのはじまりだったようで、自然にその規模が広まってきたということです。
日本の場合は基準がなく、だいぶ遅れているので比べようがありませんが、本当にその先生の治療価値が認められ、多くの患者にも信頼されて地域に貢献しているから、それではその技術を教えましょうといった本当の実力よりも、DCなどの学歴とか肩書きが優先したセミナーが開かれているのではないでしょうか。
現在、アメリカの大学教育では、アクティベータ・テクニックを選択科目として取り入れている大学はかなりありますし、オーストラリアの大学でも選択科目として取り入れられるとのことです。
-アメリカのカイロプラクティック大学ではどんなところが採用しているんですか?
保井:85年にLogan College が取り入れて、それからPalmer、Palmer West、Life College West、Cleveland、Los Angeles などというふうにふえてきています。
テキサス州のParker Collegeでは85年から必修科目になりすべての学生が受講します。
だからそれだけ重要視されてきたということでしょう。
最近のデータですけど、オーストラリアでは71%のカイロプラクターがアクティベータを使っているそうです。
カナダでは約50%のカイロプラクターが何らかの形で使っているであろうということでした。
-意外に多いんですね。
保井:それからアメリカで行われているアクティベータのセミナーへ行くと、リハビリの観点に立ったアプローチの仕方なども最近は教えてくれるようになってきていますそういったリハビリによるケア面の有効性が加味されて、さらに治療効果が向上していると思いますね。
-アメリカでは卒後教育のプログラムにもアクティベータ・メソッドは入っているんでしょうか?
保井:入っています。ですからアクティベータのセミナーを受講すれば、州の免許更新のための単位が修得できるわけです。
◆厳しいアメリカの資格認定制度
-ところで、日本ではどのくらいアクティベータ器は使われているんでしょうか?
そんな統計はないと思いますが。
保井:そうですね、どれだけいるか知らないですけど、数以前に言えるのは、アクティベータ・メソッドに関する正規の教育やテストが行われていないために、どれだけの人がどれだけのレベルなのか分からない状態です。
ただ単にアクティベータ器を購入して、分析もせずに痛いところだけパチパチ矯正して、自分はアクティベータのテクニックを使っていると勘違いしている先生もいるでしょうし、先にもお話しましたように基礎知識がないまま受講し、表面的にしか捉えられなくてアクティベータに対して誤解を招いている方が多いのではないでしょか。
以前、私もそうでしたが、しっかりした基礎教育を受けたDCでさえも1,2回だけのセミナーでは表面だけしか捉えられなくて、アクティベータの本質を理解するまでにいたらず、自分に都合のよい解釈しかしないということになるのでしょうね、これはかなり損ですね(笑)。
ですから将来は、国際基準に沿ったカイロプラクティック大学卒の先生や学生、あるいは国際基準引上げのプログラム修了者もしくは受講者を対象に単位を取れるセミナーを日本で開けるようにDr.ファーに相談していきたいですし、Dr.ファーもその方向性を望んでいると思います。
日本のカイロプラクティック業界はまだ曖昧ですが、アメリカはその点厳しいですからね。
アメリカでは一定時間のアクティベータのセミナーを受講すれば、ベーシックの試験を受けることができる資格が与えられ、試験に受かった人は、プロフィシエンシー(熟練)の認定書を受けます。
そして、認定されたドクターはインターネットのプロフィシエンシー・リストに載せられ、患者はインターネットでアクティベータ・ドクターを検索できるわけです。
さらに、ベーシックに合格したドクターはアドバンスを受講する資格があり、試験を受けることができます。日本でも将来はこのようなアメリカの制度に則っていくことができればいいかなと思っているのですが。
-たとえば、アクティベータ・メソッドにある下肢長差測定は誰でも発想的にはできると思いますけど、しかしそれが我流で行われては困りますからね。
保井:そうなんです。
下肢長差についても、私自身最初は信じられなかったというか、馴染めなかった一人なんですけど、あれは主観的な評価法だといって受け付けない人も多いようですね。
下肢長差測定はただ単に足が短い、長いといった解剖学的な長さを測っているわけじゃないんです。
筋のトーンの緊張が神経反射によって変わりますから、それを見ているんです。
神経生理学的な診方をしているわけです。
ただ解剖学的に短い、長いというような平面で見るんじゃなくて三次元に捉える。
そこに神経伝達が絡んでいるかどうか、つまりサブラクセーションによる異常神経刺激が筋に影響を与え、その微妙な筋のトーンの違いをどう引き出すかなんです。
検査法が安定していれば何度行なっても同じ反応結果が出るはずです。
アクティベータのドクターたちは患者が多くて臨床に非常に忙しいので、そういったことに関する研究論文を書く時間がなく発表されることが少なかったんですが、でもだんだん古株のドクターも後継者を育成し時間的にもゆとりができてきているので、これからどんどんアクティベータに関する論文が出てくると思いますよ。
-アクティベータに関するデータが出始めるということは、日本でもいよいよ関心が高まることが予想されますね。
保井:そうだといいんですが、現実問題として患者さんがその効果を認めるようにならないと広がらないというのは当然のことです。
日本とアメリカでは環境が違うので仕方ないのですけど、アメリカでは正規の教育を受けたドクターがアクティベータにどっぷり浸かっているんですね。
基礎がしっかりしているからあれだけ広まるんです。 そういう意味で、日本でもやはりきちっとした教育体制のなかで普及していくことができれば、現実に効果はあるんですから急激に広がるんじゃないかなという感じがします。
ただ広がり方にもいい形と悪い形があるから、ちゃんとした教育の方向性をもって浸透してくれればと願っています。
◆検査の柱は下肢長検査法差の評価
-アクティベータ器を使うにあたって、その有効性と逆にデメリット性というのはどういうものでしょうか?
保井:メリットというのは、正しく使えば実際の効果があり、とにかく治療の幅が広いということです。
逆に危険性というのは、基本的な教育を受けていない人がアクティベータをバチバチ使うことだと思うんです。
実際に操作して感じてもらえれば分かりますけど、アクティベータのアジャストで例えば骨粗鬆の骨を折るとかそういうことはありえません。
ただ、場所と方向を間違うと効果がないし、また悪化することもあるのではないでしょうか。
だから正しい評価で、正しい方向で、正しく操作しないと危険があるということです
このアクティベータのテクニックというのは、本当に臨床から叩き上げられたものなんです。
だから正しく評価して行えば効かないわけはないし、危険なことは起こりえない。
アクティベータ・メソッドでは下肢長差の評価がいちばん重要ですから、この検査が的確に診れるか診れないかでメリット、デメリットの違いが大きく出てくるんです。
-アクティベータ・メソッドにはいくつかテストがありますね。
保井:アイソレーションテストとストレステスト、それとプレッシャーテスト、この三つがあります。
それぞれで短下肢に関する長さにおける反応と変化を見るわけです。
短下肢とは骨盤不全(pelvic dificient)下肢、略してPD下肢と呼ばれているんですが、これらのテストでは、下肢長分析による患者のアジャスティングテーブルでの配置や、足と下肢の観察およびPD下肢の確認が行われます。
これは治療の成否を決定づける重要なものです。
つまり、このテストによるPD下肢の反応観察は、サブラクセーションの評価と確認のガイドに役立ち、同時に関節バイオメカニクスを改善する適切なアジャストメントをいつ、どこに行うかを示唆してくれるんです。
-それぞれのテストの違いといいますと?
保井:アイソレーション(分離)テストは患者によって行われる能動的動作です。
これをやってもしサブラクセーションがあれば下肢長に変化が生じます。
ストレステストはその名のごとくストレスをかけるんです。たとえばL5が右回旋変位であることがアイソレーションテストをやって出たとします。
それを確認するためにもう一度右にストレスをかけてみると、PD下肢だとすると下肢長に変化が観察されます。
で、それを元に正しく矯正方向に戻すのをプレッシャーテストと言います。
悪い方向に1回行うことがストレステスト、正しい方向に矯正をかけることがプレッシャーテストです。
それは交互に何回やっても再現性がありますから、再確認できるわけです。
そして本当にそこを矯正すべきなのか、する必要がないのかを診断します。
◆足長を合わせているのではない!
-ストレステストとプレッシャーテストは交互にやるものなんですか?
保井:交互にやってもいいんです。
というのは、確認のために初めはアイソレーションテストをして反応が出ますね。
その変位に対して1回プレッシャーテストをします。
それで揃えば矯正して、再度その部位のアイソレーションテストをして、矯正されていればそのまま先に進めばいいんです。
でも違うかなと思ったら今度はストレスをかけて、また再度テストすることもできるわけです。
セグメントが非常にスペシフィックになっていきますから、アイソレーションを加えて、次に細かいところをその二つの検査でさらにチェックできるということなんです。
-先ほどおっしゃったように、下肢長差による評価がいちばん大事ですから、つまり下肢長差を確認するためにプレッシャーテストとストレステストがあるわけですね。
保井:そうです。
下肢長差が違うということは、神経的な歪み、サブラクセーションがあるということですから、それを確認するわけです。
では下肢長差が解剖学的にもともと違っていたらどうするんだという人もいます。
元来どちらかにいくらか長短がありますけど、そういう違う人でも、相対的に鑑別するんです。
だから左右を比べるという感覚ではなくて、相対的に足の変化がどういうふうに変わるのかというところを観察するわけです。
勘違いしてほしくないのは、解剖学的に左右の足長をそろえようとしているのではないということです。
私の場合、下肢長差検査を行いながらビデオカメラをまわして下肢全体を毎回、オンライン・リアルタイムで患者に見せているんです。
それを見せて説明してあげれば、いまの状態、反応がとれた状態を納得してくれます。
-それは説得力がありますね。
保井:昨年のアメリカでの定例インストラクターセミナーで紹介したところ、このような方法を望んでいたドクターはこれまでもいたけど、実際に実行したのは私が初めてだと大変喜ばれました。
百聞は一見にしかずですからね。日本では我々はレントゲンが使えないですから、患者とのコミュニケーションとコンセンサスを交わすという意味で役に立っています。
◆再現性の高いテクニック
-いま医学界ではエビデンス・ベースド・メディスン(evidence based medicine)ということで有効性の証拠立ての必要性が言われていますが、アクティベータ・メソッドにおいてはどのようにお考えですか?
保井:先ほども言いましたが、アメリカのドクターも臨床ばかり忙しくて論文を発表できなかったものですから、これから論文がたくさん出て科学的な証明がなされていくはずです。
私個人の考えでは、科学ばかりに走らなくてもいいと思うんです。
科学は後についてきていいんじゃないかなと思います。
とおりいっぺんにただ科学、科学といって走ると、科学というのもやはり人間が作るものですから、間違った方向に行く可能性があるんです。
だから現実の臨床現場で結果をだして、本当に効果があるのかないのかというのを見て、それを後から科学的に証明していってもいいと思うんです。
実はそれがアクティベータ・メソッドじゃないかと思います。
これはカイロプラクティック全般にそう言えることかもしれません。
-再現性についてはどう思われますか?
保井:これだけ再現性のあるテクニックは他にあまりないのではないでしょうか。
アクティベータ・メソッドというテクニックは、ベテランの経験者が見てさわれば、どこそこにサブラクセーションがあることが分かるというのではないんです。
システムを理解して、下肢長検査がきちっとできる人なら誰でもできるはずです。
だからこれは医者や歯科医師にも理解してもらえるし、コミュニケーションが取りやすいテクニックではないでしょうか。
本当に証明しようと思ったら、筋電図につなげば下肢長検査をしなくても計測に変化が出るでしょうが、検査に毎回筋電図を使っていたら治療に時間がかかり過ぎます。
いろんな検査器具を使うよりも目で見て鑑別した方が早く患者さんを満足させることができますから。
-日本では自分の腕一本で患者さんのつらいところを治してやりたいという職人気質のところが多いようですけど、器械を使ってやることへのためらいとか拒否感というものはないでしょうか。
保井:腕一本という意味をどのようにとらえるかが問題かと思いますが、私の考え方を言うと、この器具も腕なんですね。
腕の一部であると考えればいいんです。
スピードという技術を器械に借りているというふうに考えれば、腕一本と言ってもおかしくはないと思います。
器具は補助の役割を果たすのであって、あくまでも手を使い補助的に器械を使う矯正がアクティベータなのです。
そういうような感覚で捉えた方が、術者にとっても迷いはありませんし、患者に対する効果も発揮できると思います。
-あとはスキルですね。
保井:その部位をうまく矯正するだけのスキルはそんなにむずかしくはないと思いますが、どこがメジャーの問題なのかなど、全体の評価・診断を正しく把握するのは、開業はじめはむずかしいのではないでしょうか。
どういうふうに全体のバランスが崩れたか、どういうふうに歪みがあるのかという、構造と機能の全体を知ること、さらに、内臓との関連や精神的な心の問題は、ほとんどの患者さんで関連していますから、それをどのように適切に把握できるかだと思います。
◆基礎教育の上に立った普及を望む
-それはある意味では解剖生理の学問が必要だという裏づけにもなりますね。それを意外と飛ばしてやっているところがあるでしょう、経験という、勘でやっている面がある。
保井 そうですね。
結局アクティベータを普及させていくためには、どうしても教育という面に目を向けざるを得ないんです。
そういった人たちを含めて、ではどうやってアクティベータ・メソッドの教育を行うのかということがこれからの課題です。
やはりきちっとしたレベルの人たちがいて初めて普及させていくスタート台につけると思うんです。
効果があるからといってテクニックだけが一人歩きしていくのは危険です。
テクニックを教えてほしいと望む人もいるでしょうけれども、私はテクニック先行で広まってほしくないのです。
理論に裏打ちされた評価・診断ができないと、結果として患者に害を与える危険性があるからです。
-おそらく普及するであろうけれども、やはり基礎教育がきちんとなされた上での啓蒙・普及があるのが、いちばん望ましいということですね。
保井:そうです。
いま日本国内でも国際基準に沿ったレベルでの教育をしていく方向性が強くなっています。
そう変わるべきだと思います、時代がいま変化していますから。だから、そういうふうな流れのなかで我々も教育を行なっていくアプローチが必要だなと強く感じているところです。
国際的に認定されたカイロプラクターから自称カイロプラクターまでレベルが曖昧な日本の業界において、せめてこの価値あるアクティベータ・テクニックが国際基準のある形で日本に導入させることが、このテクニック発祥の国への恩返しにつながるのではないでしょうか。
そのためにはまずは昔の考え方にこだわらず、しがらみを捨てて大きな変革をすることが必要だと思います。
自己革新というキーワードが注目される今、教育する側も、教育を受ける方も、まずは今までのパラダイム、価値観を捨てて、大きく変化する勇気があるかどうかということではないでしょうか。
-今日はお疲れのところありがとうございました。
「 マニュピレーション VOL15 No.1(2000.2) 54 」 より